投資しなかったのは「完全にミス」——起業家と投資家が振り返る、急成長の軌跡

起業が盛んなアメリカにおいては、投資家を“entrepreneur behind entrepreneurs(起業家の背後にいる起業家)”と表現することがあるそうだ。


W fundのGENERAL PARTNERである東明宏氏は、High Linkを背後から支える投資家として、シリーズA・シリーズBと投資を実施した。High Linkの急成長は、東氏の存在を抜きにして語ることができない。


しかし、出会いから今日までの日々を振り返ると、一度は投資の意思決定を見送った過去があるそうだ。


数々の起業家を支援してきた東氏は、なぜHigh Linkへの投資を決めたのか。そして、今後の私たちにどのような期待を寄せているのか。


代表・南木将宏との対談を通じ、チームから会社へと姿を変えたシリーズA、創業時から掲げ続ける「ある目標」へのスタートを切ったシリーズBを振り返り、さらには先々に描く未来予想図についても紐解いていく。

南木将宏は“ブレない起業家”だった

──── 東さんと南木さんは、どのような経緯で出会われたのでしょうか。

東:エンジェルステージから投資していたANRIのアンリさんに、High Linkを紹介していただいたのです。「コンシューマーサービスを提供している投資先があるから、一度話を聞いてみてほしい」と声をかけていただいた記憶があります。

南木:当時はシードステージで、月商が100万円程度でした。さらなる成長を目指して、調達先を探していたのです。ただ、僕自身はツテがなく、アンリさんにいくつかのVCを紹介していただいていました。

──── W fundとHigh Linkのお付き合いは、シードステージからなのですね。

南木:当時からずっと連絡を取らせていただいているのですが、厳密にはシリーズAからです。シードステージの時点では、投資を断られてしまって(笑)。

東明宏 / W fond GENERAL PARTNER

東:今となっては明確に私の判断ミスだったのですが、当時は香水のマーケットがそれほど大きくないと感じ、投資をする意思決定ができなかったのです。また、日本は欧米諸国に比べると香りに対する感覚が強くないという点も考慮しての判断でした。

くわえて、私自身、あまり香水を頻繁に利用するタイプではなかったので、ユーザーの感覚をリアルに理解できないという懸念もありました。

どうすれば大きく成長させられるかも考えたのですが、私が提供できる価値はそれほど大きくないのではないかと思ってしまったのです。

南木:最終的にお断りされてしまいましたが、東さんがいちばん事業に向き合ってくださった気がします。多くの投資家さんは「私は男性だから分からない」という回答だったのですが、東さんはそれでも、事業や商材を理解しようとしてくれました。

だから、𝕏(旧Twitter)のDMで追撃もしましたよね(笑)。「もう一度検討してください」と2回ほど連絡しました。

東:そう言っていただいていますが、結果的に、当時は事業とマーケットへの解像度が低かったと思います。

ただ、南木さんの起業家としての素質は高いと感じていました。私は投資をする際に、仲間を集められる起業家か否かを見るようにしているのですが、南木さんは明確に“仲間を集められる起業家”だったからです。

仲間を集めるには、たとえば強力なプロダクトを持っているとか、熱意を持ってビジョンを語れるとか、いくつかの方法があります。南木さんは後者で、向かうべき先を明確に持っており、そこがブレないのです。

今もそうですが、当時から「香水の会社で終わるつもりはない」と断言しており、いずれはサイバーエージェントのように次々と新規事業を立ち上げる会社をつくることを目標に掲げていました。

手段は朝令暮改でも構いませんが、向かうべき先がブレる人に、なかなか仲間は付いてきてくれません。その点、南木さんには強い意志が感じられたので、起業家としてとても優秀なのだろうと思っていましたね。

投資しなかったのは「完全にミス」

──── シードステージでは投資に至りませんでしたが、シリーズAでは投資の意思決定をされています。どのような経緯があったのでしょうか。

南木:背景から話すと、シリーズAを迎える直前、およそ月商2,000万円ほどの売上がありました。エクイティで調達するのに十分な根拠を持っていたのですが、デットファイナンスでも問題なく経営できていたので、このまま黒字経営を続けてもいいのではないかと考えていたのです。

南木将宏 / High Link CEO

ただ、大手が資本を投入すれば簡単に負けてしまう可能性がありましたし、大型の調達をする経験が僕らを成長させてくれるとも思えたので、思い切ってエクイティでの調達をする道を選びました。

そのタイミングで、僕たちの事業に向き合ってくださった東さんのことを思い出し、改めて声をかけさせていただいています。

東:声をかけていただいたときは、想像以上に事業が伸びていましたし、とにかく経営陣が大きく成長していて、「完全にミスった」と思いましたよ(笑)。VCとして、もっと早く投資しておくべきだったと後悔しました。

また、香水に対する私自身の考えが変化したのも、投資の意思決定をさせていただいた理由の一つです。

当時はコロナ禍で、日本人の「香り」に対するイメージが変化していました。家の中を充実させようという動きがあり、ルームフレグランスを購入したり、それがきっかけで香水を利用する人もいたりして、私もその一人だったのです。

以前よりユーザーの気持ちが理解できるタイミングでもあったので、今なら提供できる価値があるのではないかと、改めてこちらからオファーさせていただきました。

裏話でいうと、当初の予定よりも出資額を減額されそうになったこともありましたね。投資を決めた後、「実はそんなにいらないかも」みたいな流れになって(笑)。

南木:経営について理解がなかったので、「黒字なのにそんなに借りる必要があるのかな?」なんてことを考えていたのです。振り返ると、本当に何も分っていなかったのだと思います。

KPIは「1,000万円の赤字」

──── シリーズAの調達を経て、どのような事業成長を実現でき、南木さんご自身にはどのような変化があったのでしょうか。

南木:お金の使い方を知れたことが、最大の変化だったように思います。

調達をする以前は、SNSをはじめとするオウンドメディアを通じたオーガニックのマーケティングと、成果型のインフルエンサーマーケティングで事業を伸ばしていました。支出を抑えながら、いわば費用対効果が見えやすい施策だけに注力していたのです。

ただ、調達をしてからたくさんのアドバイスをいただき、中長期的な視点でマーケティングを実施していく戦略に切り替えました。それまでのアプローチと比較するとCPAは悪化するものの、より早くユーザーを獲得する戦い方にシフトしたのです。

自分たちだけでは絶対に実施できていないアプローチでしたが、戦略を変えたことで事業が急速に成長しました。

役員とインターンだけで会社を経営していたところから、初めての正社員採用に踏み切ったのもシリーズAのタイミングです。

どのようにして権限を委譲すればいいのか、どうやって強い組織をつくっていくのか……という新たな課題に向き合うことができ、この辺りから、ちゃんと「会社」になっていったような気がします。

東:南木さんは「何も分っていなかった」と言いますが、ちゃんと「健全に成長を続けている会社の悩み」にぶつかっていたと思います。採用に関する悩みも、権限委譲をすべきタイミングまで、自分の手でしっかり会社を育ててきたからこそ見えてきたものです。

お金の使い方に関しては、これまでの投資先でも、同じような悩みを抱えているケースを見てきました。よくある話なのです。僕は背中を押してあげるくらいしかしておらず、「勇気を持ってアクセルを踏もう」と声をかけた程度ですよ。

南木:よく「赤字が足りない」と言っていましたよね。「まずは1,000万を目標に赤字を出しにいこう」とアドバイスをいただき、かなりビビりました。

東:でも、実際にマーケティングに投資をしたら、極めていい数字が出ましたよね。ここでアクセルを踏まないことは、むしろリスクだということを経営陣も理解してくれて、一気に成長曲線がしなった記憶があります。

持続的な成長を生む、変幻自在の経営スタイル

──── シリーズBでも、W fundから調達を実施しています。どのようにして、投資の意思決定をされたのでしょうか。

東:シリーズAの調達以降は、市場環境が安定していたのもあり、「サービスをどんどん伸ばしていこう」というフェーズでした。マーケティングに投資し、新しいメンバーをどんどん採用して、とにかくアクセルを踏むことが戦略の一丁目一番地だったわけです。

それがうまくいったことで、事業は右肩上がりの成長を実現してくれました。あっという間に仲間も増え、注目度の高い会社になったと思います。シリーズAからお付き合いのあるW fundとしては、ぜひともシリーズBでも投資をさせていただきたいと考えていました。

南木:僕たちとしても、東さんには引き続きお世話になりたいと思っていました。経験の少ない2人の経営陣しかいなかったチームに、経営のイロハを叩き込んでくれた存在でしたし、まだまだ教えていただきたいことがたくさんありましたから。

──── シリーズBの資金調達を終えグロースフェーズですが、シリーズBの調達以前と以降では、どのような変化が起きていますか。

東:High Linkがどうこう以前に、市場環境が大きく変化しました。シリーズAのタイミングは「イケイケどんどん」な雰囲気でしたが、現在はお金をどんどん使えるような環境ではありません。手堅い経営が求められるタイミングになっています。

シリーズBの調達以降、最初に着手したのは経営戦略の変更でした。堅実な経営に舵を切り直したのですが、南木さんをはじめとする経営陣はとてもうまく立ち回っていると思います。

シリーズAの調達をするまで、ずっとリーンな経営を続けていたので、その強みが今になって生きていますよね。最初から「イケイケどんどん」で経営をしてしまうと、なかなか軌道修正ができないのですが、南木さんは簡単に切り替えができます。

知恵を絞って経営してきた過去には再現性があり、だからこそ現在も健全な経営が実現できているはずです。

南木:直近だと、主力事業である「カラリア」は、トップラインを伸ばすだけでなく、LTVを高める方針に切り替えました。2023年の2Qから本腰入れてLTVの改善に取り組み、過去最高のLTVを実現できたので、大胆なアクションにも手を出せるようになっています。

 

優秀なメンバーも続々と入社しており、日に日に“強い組織”になってきているのも大きな変化です。

メルカリでデータアナリストチームのヘッドを務めていた樫田光さんや、ノバセル代表の田部正樹さんなど、経験豊富な方がアドバイザーとして参画してくれていて、知的でエネルギッシュな組織に、経験豊富なビジネスパーソンの知見が注ぎ込まれています。

上場を見据えて経営をしているのですが、それを実現するだけの事業とチームが完成しつつあります。

東:データドリブンであることが強みになっていますが、クリエイティビティも兼ね備えていて、とてもいいチームですよね。

南木さんもブレがなく、私にもしょっちゅう連絡してくる貪欲さがあるので(笑)、数ある投資先のなかでも大きな期待を寄せています。

待っているのは、想像を超えるエキサイティングな日々

──── 東さんから見て、High Linkの魅力はどのようなところにあると思いますか。

東:Philosophyにもあるように、枠が存在しないところです。無限の可能性を感じるというか、「どこまでいけるんだろう」と期待し続けられるチームなので、僕の想像を超えた成長をしてくれるのではないかと感じています。

アフターコロナの世界では、「香り」のマーケットは数字で判断できる以上に大きな規模があるような気がしています。コロナ以前と以後では、日本人の「香り」に対する価値観が大きく変容しているからです。つまり、現在の事業ドメインだけでも、High Linkは十分に魅力的な会社だと思っています。

ただ、南木さんが見ている世界はもっと広い。ただでさえ魅力的な事業を展開しているのに、その枠を当たり前に超えていこうとしているので、これからが楽しみで仕方ありません。

話をすればするほど、シードラウンドの投資をお断りした私の判断は、さっぱり的外れでしたね。

南木:とはいえ、課題も山積しています。まだまだ事業を拡大していけるポテンシャルがあり、成長速度も上げていけるはずなのに、理想には手が届いていません。採用活動にもより一層力を入れていかなければいけないと思っています。

東:たしかに、ポジションは「ガラ空き」ですよね。市場に対してこれだけの実績が出ているのにCFOが不在ですし、グロースを手がけるポジションも人が足りていないように見えます。

現在は香水のサブスクリプションが事業の中心ですが、ルームフレグランスをはじめとする周辺のドメインで事業提携や事業買収を実施する可能性も十分にあると思っており、そういったダイナミックな動きをしていくチャンスがあるのはキャンディデートにとって魅力的なはずです。

南木:もちろん相性はあると思っていて、かなりプロダクト思考が強い会社なので、「サービスをよくしたい」という気持ちを強く持っている人と働けたら嬉しいです。

僕たちは仕事に「わくわく」できる環境を全力でつくっているので、その環境を利用して大暴れしてほしいですし、それによって会社が成長していくのであれば、とてもいい関係性を築けると思います。

東:いち投資家として、High Linkはとても魅力的な会社です。いつも私の期待を裏切ってくれるので、ここでつくっていくキャリアも、きっと私が想像する以上に素敵なものになると思います。

南木:既存事業の拡大だけでなく、新規事業もどんどん仕込んでいくタイミングなので、手前味噌ですがエキサイティングな毎日を過ごしていただけるはず。創業以来、今日よりも明日に「わくわく」できる日々が連続しているので、もっと多くの仲間と未来に「わくわく」できたら嬉しいです。

構成:オバラ ミツフミ
デザイン:小野 郷
編集:塩盛 茉優子

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