
はじめに
High Link プロダクト開発組織マネージャーの芦川(https://x.com/assy_data )です。
AIにより専門外の領域に対する越境コストが下がり、「PdMがコーディングするようになった」「非デザイナーがFigmaデザインやプロトタイプを自作した」といった事例はここ1年ほどで急速に増えてきました。
これまで以上に越境が容易になってきたAI時代の組織のあり方として、専門領域にとらわれずに「チームとしてどう価値を出すか」を起点に動くスタイルが、少しずつスタンダードになってきています。
High Linkでも、LLMの台頭以降、AI活用に積極的に投資し、業務の効率化や専門領域の壁を下げる取り組みに力を入れてきました。
私たちはこの動き方を、High LinkのPhilosophyである「わくわくで、あらゆる枠を超えていく」になぞらえて、「枠超え」と呼んでいます。
ここでいう枠超えとは、専門性をなくすことではありません。自分の専門性を軸にしながら、AIの力を借りて隣接領域・周辺領域にも踏み込み、チームとして出せる価値の総量を増やしていく動き方です。
本記事では、High Linkの考える枠超えプロダクト開発組織について、実際の取り組み事例とともにご紹介します。
「越境的な動き方に関心があるエンジニア・PdM・データに関わる方」に向けて書いていますが、組織を見る立場の方にも、ひとつの事例として参考になれば嬉しいです。
AIによって、職能の壁が低くなった
High Linkの開発組織は立ち上げ当初から「少数精鋭」、「クロスファンクショナル」を志向してきました。
ただ、ここでいうクロスファンクショナルは、職能を超えるほどのものではなく、「フロントエンド ↔ バックエンド」のような「自分の専門領域を持ちつつ、隣接領域に染み出す」程度のものでした。
理由は単純で、職能レベルでクロスファンクショナル化するには、越境コストが高すぎたからです。コードを読むのにも、データを触るのにも、デザインの基本ルールにも、それぞれ越えるべき学習コストがある。「やったほうがいい」とは思っていても、現実には自身の専門領域にコミットしつつ専門外のことに踏み込むのは容易ではありません。
AIが専門外の領域に踏み込むための伴走者になってくれることで、越境のハードルは大きく下がりました。これによって組織としての動き方も少しずつ変わってきています。以下、いくつか事例をご紹介します。
非アナリストのデータ活用とアナリストの役割拡張
High Linkには mofflytics という社内データ分析エージェントがあります。自然言語で質問すると、社内のデータ定義やテーブル構造を踏まえてSQLを生成し、データの集計からサマライズ、示唆出しまで行ってくれます。

前四半期の利用は 1,871回、営業日に均すと 1日およそ30回 誰かが何かを聞いている計算です。従業員100人規模の会社で「データへの問い合わせ」がここまでカジュアルになったのは大きな変化です。
アナリストの工数が削減されたのはもちろんですが、もう一つ大きいのは、これまでアナリストにわざわざ頼むほどでもなくて埋もれていたニーズが満たされるようになった ことです。
これによって、非アナリストのデータを活用した意思決定が盛んになりました。
非アナリストがデータ分析に越境したおかげで、アナリスト工数が浮き、その分アナリストは事業モデリングやA/Bテスト設計など、より上流の問いを立てる側に時間を使えるようになりました。さらに、AIコーディングが優秀なので、データ基盤のモデリングやテーブル改善まで自分たちで回せる動きも進んでいます。データエンジニアの採用が今後ますます厳しくなる中、AIを駆使することで、分析だけでなくデータ基盤の改善にも踏み込めるような動き方は、組織として育てておきたい方向だと考えています。
PdM・CS・デザイナーがコードを理解し、開発に踏み込む
High Linkにはnyarchitectというコードベース解説エージェントもあります。リポジトリ内のコードや実装経緯をもとに、仕様や処理の流れを自然言語で説明してくれるものです。直近3ヶ月で 月平均45件、25人以上のメンバーが日常的に質問を投げています。

質問の内訳を見ると、仕様の確認に加えて、過去経緯の発掘(「このメール、いつから誰に送ってる?」)、マーケによる施策の実現可能性ヒアリング(「リピート購入促進クーポンを導入する工数感は?」)など。これまでエンジニアに相談していた内容を自律的にこなせるようになりました。
エンジニアは問い合わせ対応の分を開発リソースに充てられるようになるだけでなく、非エンジニアのできる業務の幅が広がりました。例えばCSはお客様からのアラートをただエスカレーションするに留まらず、既存実装を確認したうえで、あるべき仕様や改善案を整理し、PBIの起票まで担えるようになりました。
最近では実装の理解に留まらず、PdMがコーディングも行うようになりました。

簡単なUI/UX対応のPull RequestはPdMがメインで回しており、「やりたいけど開発優先度が下がりがちな細かい改善」が拾いやすくなりました。これまで「開発タスクは開発メンバーのもの」だったのが、「プロダクト開発チーム全体で受け持つ」ように変化しつつあります。
枠超えプロダクト開発組織にむけて
冒頭で触れたように、「枠超え」はHigh LinkのPhilosophyである「わくわくで、あらゆる枠を超えていく」からとっています。

このPhilosophyを開発組織のレイヤーで具現化していくことが、私たちの目指す枠超えプロダクト開発組織です。
具体的に目指しているのは、専門性を持ったメンバー同士が、職種の境界を越えて連携しながら、チームとしての価値創出のスピードを上げていくことです。AIによって職種の「枠超え」のコストが下がった今、以前よりもずっとその形を実現しやすくなってきました。
枠超え開発組織がもたらすもの
枠超えが進むことで、まず改善スピードが上がります。職種ごとに完全に分業されている状態では、小さな確認や修正でも特定の人に依存しがちです。お互いに補完できる領域が増えることで、チーム全体としてボトルネックを解消しやすくなります。
また、意思決定の品質も上がります。エンジニアが事業やデザインを理解する。PdMが実装やデータを理解する。CSがシステムの制約を理解する。こうした相互理解が進むほど、施策検討や意思決定の前提が揃いやすくなります。
それだけでなく、個人の動き方としてもプラスに働くと考えています。
- AIによって職能越境のハードルが下がることで、現状の職能にとらわれず、個人の志向性(will)や強み(Can)を考慮したアサインがしやすくなる
- 自身のやりたい方向性が変わったときにも、ジョブチェンジが容易になる
AI時代において、単一スキルだけで差別化し続ける難易度は上がっていくと感じています。
一方で、事業・プロダクト・デザイン・データ・エンジニアリングのような複数の文脈をつなぎ、自分なりの問いを立てられる人の価値はむしろ上がっていくはずです。
その意味で「枠超え」に張ることは、組織にとってだけでなく、個人のキャリア戦略としても合理的な選択だと考えています。
具体的な取り組み
枠超えプロダクト開発組織に向けた最近の取り組み事例をいくつかご紹介します。
1. エンジニア主催のPdM/デザイナー向けコーディングもくもく会
エンジニアが中心となり、ハンズオン方式でAIコーディングをサポートする会を毎週行っています。
参加者は、自分が取り組みたい小さな改善やプロトタイプを持ち寄り、Claude CodeなどのAIコーディングツールを使いながら実装を進めます。エンジニアは詰まったポイントの相談に乗ったり、レビュー観点を伝えたりします。
わからないことがあったときにすぐに聞けるようにすることで、活用のハードルを下げるだけでなく、理解を深める学習機会を増やすことに貢献しています。
2. 社内情報のAI用共有コンテキスト基盤開発
AI活用を進めるほど、AIに渡すコンテキストの質がアウトプットの質を左右します。
そのため、プロダクト仕様・過去の議論・実装方針・分析結果などを、AIと人間の双方が参照しやすい形で整理する共有コンテキスト基盤を整備しています。

3. デザインキットの整備とプロトタイプ公開基盤
デザイナーが主導してAI用のデザインキットを整備しています。これにより非デザイナーでもデザインシステムに則ったプロトタイプが作れるようになりました。
また、HTML形式で簡単に社内公開できる基盤を整備しているため、作ったプロトタイプを共有しやすくなっています。
これらの合わせ技により、プロトタイプをまず作って議論するのがかなりやりやすくなりました。

もちろん、最終的な体験品質はデザイナーが担保します。ただ、議論のたたき台を非デザイナーが自分で作れるようになることで、アイデア検証の速度は大きく上がります。
これらの取り組みは、単にAIツールを導入するだけではなく、職種を越えて動きやすくするための土台づくりでもあります。
AI活用を個人の努力や一部の得意な人に閉じず、チームとして再現性を持って広げていくことで、枠超えの動き方を組織に根づかせていきたいと考えています。
大事にしていること
越境には、責任の所在が分散する、専門性が薄まる、AIに頼り切りになって個人のケイパビリティが育たない、といったリスクがあると考えています。
便利だからこそ押さえておきたいポイントとして、以下の2点を大事にしています。
1. 専門領域に対するオーナーシップを明確に持つ
越境が進むほど、「誰がそのコードに、その設計に、そのデータに最終責任を持つのか」が曖昧になりがちです。AIが書いたコードを誰でもPRに出せる状態は、便利な反面、責任の所在が分散しやすい。
High Linkでは、闇雲に越境を推奨するのではなく、各専門領域のオーナーが品質担保するようにしています。
- 社内エージェントの品質は、その分野の専門家が責任を持って担保する
- PdMが書いたコードであっても、コードレビューは必ずエンジニアが行う
- データモデリングをアナリストが行っても、データ基盤の品質はデータエンジニアが最終チェックする

AIは、組織のセキュリティ態勢や設計思想を完全に理解した上でアウトプットを出してくれるわけではありません。「もっともらしいコード」と「安全で意図に沿ったコード」の差を最終的に判断するのは、依然として専門家の役割です。越境する自由と、専門家のオーナーシップの両立が重要です。
2. AIを「使う」だけでなく、AIを通して「学習」する
もうひとつ、個人レベルで意識していることがあります。
AI駆動でプロセスを回していくと、ドメインへの深い理解が一見すると不要に見えてきます。コードを書かなくても動くものができる、データを理解しなくても分析が出てくる。 しかし、AIが出してくれるアウトプットが本当に自社の文脈に合っているのか、何を捨てて何を選ぶべきなのかを判断するには、結局のところ人間側の深い理解が必要です。AIは多くの場面で一定以上のアウトプットを素早く出してくれますが、その「一定以上」を超える判断は、AIに丸投げしても出てきません。
便利になったからこそ、自分のケイパビリティを上げる努力をやめると、AIが出してくれる一定水準のアウトプットを超えられなくなる。これは個人にとっても、組織にとっても、長期的に見るとリスクだと感じています。
そこで、AIに任せきりにせず、AIを学習機会として使う ことを大事にしています。
- AIに任せたタスクの結果を、自分でも理解できるところまで噛み砕く
- AIへの問いを立てる過程で、自分が何を分かっていて何を分かっていないのかをメタ認知する
- 「自分でやれば学べたはず」のタスクをAIに丸投げしないラインを、各自が引く
こうすることで、「AIに頼るだけ」以上の価値を出せる個人を増やしていきたいと考えています。
High Linkで、一緒に枠超えしませんか?
ここまで書いてきたように、High Linkはいま「枠超えプロダクト開発組織」を本気で目指しています。AIによって組織のあり方が大きく変わりつつあるこの時代に、職能の枠を超えて、個人もチームも出せる価値の総量を増やしていく。その先に面白いモノづくりができると信じています。
- 自分の専門性を軸にしながら、隣接領域にも踏み込んでいきたい方
- AIを単なる効率化ツールではなく、自分とチームのケイパビリティを広げるものとして使いたい方
- 職種の枠に閉じず、プロダクトや事業に対してより大きな価値を出したい方
こうした考え方に少しでも共感してくださる方は、ぜひカジュアル面談でお話しさせてください。エンジニア、PdM、データ、デザインなど職種を問わず、お待ちしています。