
ユーザーの声を「聞く」会社は多い。だが、それを組織の「資産」として活かしきれている会社はどれだけあるだろうか。
香りの総合プラットフォーム「カラリア」を運営するHigh Linkは、以前からユーザーの声を聞くことを重視してきた。その仕組みづくりをリードしているのが、Data Division・リーダーの日高 一馬と、Design Division・リーダーの船木 由紀だ。
前職からサービスのリサーチに携わってきた二人だが、ハイリンクの「ユーザーの声を重視する文化」は際立って映ったと振り返る。なぜ、ここまでユーザーの声を大事にするのか。二人の対談を通じて、その理由と、ユーザーの声を「資産」に変える挑戦の現在地を探っていく。
「ユーザーが本当に欲しいもの」を見極めたいから
——まず、それぞれの役割と、業務内容を教えてください。

日高:Data Divisionのリーダーをしています。社内のデータ分析やデータ分析基盤、最近だとAI基盤を担当するチームを統括しています。

船木:Design Divisionのリーダーをしています。プロダクト開発チームに入り、カラリアのプロダクトUIや体験設計を担当しています。
——二人ともこれまで、いろいろな会社でユーザーリサーチに携わってきたそうですね。
船木:はい。過去の会社でもよくユーザーの方にインタビューしたり、定量アンケートを実施したりしていました。
日高:僕も前職からユーザーリサーチに携わってきました。ジャンルとしてはtoC(一般消費者向け)サービスの開発経験が長く、船木さんと同じく自分でインタビューをすることもあれば、アンケートを設計・実施することもありましたね。
——ユーザーリサーチを経験してきた二人にとって、ハイリンクのリサーチにはどんな印象を持ちましたか。
船木:全社的に、ユーザーリサーチへの理解・関心が高い会社だな、と思いました。たとえば、入社直後に任されたプロジェクトがあり、チームでデザインレビューする中で「これはユーザーインタビューした方が良さそうだ」となって、入社からわずか1週間でユーザーインタビューを実施していました(笑)。
日高:そういえば僕も入社3日目でユーザーインタビューをやっていましたね(笑)。

——二人とも入社直後からですか。
船木:はい。私たちが入社する前から、ハイリンクでは継続的にインタビューが実施されていました。だから、社内でもインタビューの下地ができていて、取り組むハードルは低かったです。また、カラリアにはたくさんのユーザーがいるから、協力いただける方が見つかりやすい。それも、ハードルが低い理由のひとつですね。
——なるほど。そもそもハイリンクは、なぜここまでユーザーの声への関心が高いのでしょうか。
船木:ユーザーの方が、本当に「欲しい」と思っているものを見極めたい。そう思っているメンバーばかりだからだと思います。確かめないまま作ると、プロダクトが独りよがりになってしまう。だからこそ、ハイリンクではインサイトドリブンでプロダクト作りをキックする姿勢が根っこにあるんです。
日高:一方で、いろんな企業でユーザーリサーチを経験してきたからこそ、見えてくる課題もあって。すでに高い興味と関心はあるのだから、仕組みをブラッシュアップすることで、よりユーザーの方が求めるプロダクトを届けられるはずだって。
——具体的には、どんな課題を感じていたのでしょうか。
船木:ユーザーの声を「集めるだけ」の状態でしたよね。
日高:そう。ユーザーの声が大事なのは知っているし、積極的に聞いてはいるけれど、蓄積する方法がドキュメントだったり、Slackだったり、はたまた「人」だったりと、バラバラでした。また、リサーチそのものの進め方も、社内で統一されていないから、チームやプロジェクトごとに異なっていて。蓄積はされているけど、組織として知見を引き出しやすい形にはなっていなかったんです。
集めたユーザーの声を「資産」に
——「集めるだけ」の状態を解消するために、仕組みづくりに踏み出していくのですね。
船木:本格的に動き出したのは、2025年の上半期から。私たちの前任者が、リサーチOps(リサーチ運用の仕組みづくり)プロジェクトとしてスタートしました。まず、当時から社内に浸透していたNotionを活用して、ユーザーの声をデータベース化し、土台を整えていきました。

——その後、二人にそのプロジェクトが引き継がれた?
船木:はい。リサーチOpsプロジェクトの担当者交代に伴って、2025年の夏に私たちがバトンを受け取りました。この時点で、データベースの仕組みはほぼ出来上がっていたんです。私たちが取り組んだのは、データベースに過去のインタビューを「お引越し」させること。そして、AIを活用して、インタビューからインサイトを抽出するプロセスを効率化していくことでした。抽出したインサイトは、元のインタビューデータベースとは別に、「インサイトのデータベース」としても見られるように。


これにより、「自分では出会えない香水をレコメンドしてほしい」「香水を手元に余らせたくないけどどうしたらいいか」といった、インサイトごとのインタビューログを横断して引用できるようになりました。
——インサイトから、関連する声に遡れるんですね。
船木:インタビューを実施する前に「どういうインサイトが溜まっているか」を先に確認するだけで、デスクリサーチのように仮説を立てられるようになりました。
——ずいぶん便利な仕組みになりましたね。とはいえ、実際に社内で使ってもらえなければ、せっかくの仕組みが活かせないですよね。
日高:まさに、そうなんです。インサイトベースで、過去のログを掘り起こせるようにはなりました。ただ、Notionにアクセスして探す手間があるため、もうひと工夫しないと、本当の意味で使われるものにはならないだろうな、と。
船木:プロダクト開発者や、開発に関わる人たちに使ってもらうために「どう共有するか」はものすごく意識しました。
AI活用で、気軽にインサイトを取り出せる仕組み作り
——データベースを使ってもらうために、具体的にどんな工夫をしたのでしょうか。
日高:「リサーチデータベースを使う」という意識をしなくても、蓄積したインサイトに誰もがアクセスしやすい状態を作ろうと考えました。
そして作ったのが、Slackbotの「asaresearch」です。検討中のプロダクトの新機能やマーケティング施策でインサイトを見たいとき、@asaresearchをメンションして聞きたいことを聞くだけ。すると、関連のインサイトや、それに紐づくインタビュー、発言を抽出して返してくれるんです。

船木:社内では、「こういう機能を作ったほうがいい」「ここを改善したほうがいい」というアイデアが、PBI(プロダクトバックログアイテム)として日々生まれていきます。でも、そのアイデアが本当にユーザーが欲しいものなのかは、インサイトと照らし合わせて確かめる必要がある。
これまでは、確かめるために自分でNotionを開いて、関連するインサイトを探す手間がありました。でも、「asaresearch」ができたことで、ユーザーの声を起点にしたプロダクトづくりが、ぐっとやりやすくなったんです。
——将来的には、AIをもっと活用して、さらに自動化を進めていくのでしょうか。
日高:そうですね。ただ、AIにお願いしてもいいことと、人がすべきことのバランスはしっかり見極めねば、と考えています。

——人がすべきこととは、たとえば?
日高:「判断」に関することですね。やろうと思えば、「過去のインサイトがこうだから、このPBIの評価はこう」「過去のインサイトがこうだから、開発の方向性はこうしたほうがいい」といった判断まで、AIがしてくれるんですよ。
船木:プロダクトづくりに正解はありません。何を大切にしていくか、何を軸にデザインしていくか。人の意思が、プロダクトのあり方を左右すると思っています。だから、判断のどの部分までAIに任せるのかは、慎重に考えるべきだな、と。
ユーザーインサイトを「仕組み」ではなく「カルチャー」にしていく
——では、今後High Linkのユーザーリサーチは、どのように進化していくのでしょうか。
日高:力を入れているのは、ユーザーリサーチのインサイトを、AIワークフローに組み込むことです。現在社内では、企画、デザイン、実装、デリバリーまで、プロダクト開発の各フェーズでAIを活用するワークフローをつくっています。その流れの起点に、ユーザーの声から得たインサイトを置いていきたいんです。
——ユーザーの声を起点にすることで、どんな状態を目指しているのでしょうか。
日高:リサーチを「実施する」部分は、これからも人間がやらないといけません。だから、地道なリサーチ活動は続けつつ、「活用する」プロセスは自動化していく。意識しなくても、AIがインサイトを参照する状態を目指していきます。
船木:それを理想とした上で、その前段階として、まずインサイトが「みんなの頭の中」にある状態も作りたいんです。

——インサイトがみんなの頭の中にある状態?
船木:データベースの中に資産があるだけでなく、みんなが普段の思考のなかで、自然とユーザーの声を起点に考えられる状態のことですね。
AIがいくら自動でインサイトを参照してくれても、ワークフローをキックするのは人間です。その人が「どんなプロダクトにしたいのか」「どんな方向に進めたいのか」を描くとき、まずユーザーの声に立ち返って考える。そんな基本の姿勢づくりにも取り組んでいきたいですね。
——仕組みだけでなく、カルチャーの醸成にも挑戦していくのですね。
船木:はい。何か新しいことを始めるとき、現状ではつい「ユーザーに聞きに行こう」となってしまう。もちろんそれもとても良いことなのですが、その前に「まずは資産(=データベース)を見にいこう」に変わっていくといいな、と思っています。
日高:そのためには、「過去の資産がどう活きるか」を、社員が実感できる場面を増やしていくことが大事ですよね。たとえば、新しいインタビュー結果を社内に共有するときに、関連する過去のインサイトもセットで紹介する、とか。それを積み重ねることで、データベースがただの倉庫ではなく、活きた資産だと実感してもらえるのではないか、と考えています。
執筆:仲 奈々
企画:波多野佑紀
編集:波多野 佑紀・黒沢 由布
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