「事業部全員データアナリスト計画」がもたらした誤算と財産——とあるスタートアップのデータ組織立ち上げ奮闘記

データドリブンな経営を目指し、社内のデータエンジニアが指揮を執る形でデータ組織を立ち上げたHigh Link。データを事業成長のエンジンとすべく、“事業部全員データアナリスト計画”を掲げ、データの民主化を粛々と進めてきた。

しかし、計画の半ばで大きな壁にぶつかることになる。Techサイドだけでなく、Bizサイドもデータを扱える組織文化をつくり上げられたものの、データと経営をつなぐスペシャリティを獲得するのは想像以上に困難だったのだ。

壁を突破すべく、フリーランスとして企業のデータ分析をサポートするデータアナリストのanbooさんが業務委託として参画。社内で整備していたデータ基盤を活用し、入社から間もなくしてトップラインの向上に成功した。

今後High Linkは、データ分析のスペシャリティを組織に落とし込み、よりデータドリブンな経営スタイルへと舵を切っていく。

組織全体にデータの重要性を浸透させ、データを自由に扱えるようになるまでにどのような苦悩があったのか。これからさらにデータの力を経営に生かすためには、どのようなアクションが必要になるのか。

今日に至るまでの“事業部全員データアナリスト計画”の変遷、High Linkにおけるデータアナリストのバリューについて、データチームマネージャーのassyとデータアナリストのanbooさんとの対談を通じて明らかにしていく。

“データの民主化”でぶつかった壁

—— High Linkのデータ組織は、どのような経緯で立ち上がったのですか。

assy:2年前に入社した当時、High Linkにはデータ組織が存在しませんでした。会社としてデータを軽視していたわけではなく、むしろ「事業のグロースにはデータが不可欠である」という認識を持っていたのですが、あくまで「認識」の範囲内だったのです。

データ活用に関しては、データが必要な際に一部のエンジニアがSQLを叩く程度だったので、事業をグロースさせるために、まずデータの基盤をつくるところからはじめました。

assy / データチームマネージャー:早稲田大学大学院を卒業後、LINE株式会社へ新卒入社。音声認識技術の研究開発に従事し、2021年に一人目データ人材として株式会社High Linkへ入社。データマネジメントやデータ分析、データを活用したユーザー体験の最大化など、データを武器にした事業価値の創出を推進している

プロジェクトが進行していくと、「成長戦略の中心にはデータがあるべきだよね」という経営陣との共通認識が生まれ、データ戦略の策定と実行のためにデータチームを立ち上げました。

このとき、誰もがデータを武器に事業推進ができるよう「データを民主化する」というデータチームのミッションが生まれました。“事業部全員データアナリスト計画”を掲げ、エンジニアじゃなくても、データ分析ができる組織にしようと考えたのです。

その結果、職種を問わず「データは自分で見る」というカルチャーができましたし、初期からデータマネジメントには力を入れていたので、データを活用するためのアクセシビリティも一定は担保できるようになりました。

具体例を挙げると、ユーザーのLTVを分析するための基盤を開発組織と連携してつくるなど、複雑な計算が必要ない状態をつくれていました。よく参照されるデータに関しては、必要なときに、必要な情報を、誰もが取り出せるくらいにはなっていたんです。

もちろん、日々データニーズも増えますし、まだまだ整備しないといけないことは山積みですが(笑)。

—— 話を聞いていると、課題がないようにも感じられます。

assy:僕自身、そう思っていました。ただ、フェーズが変わると、そうも言っていられなくなってきて……。

僕が入社して間もなくは問題なかったのですが、やがて「カラリア」は50万人を超えるユーザーを抱えるようになり、さらなる成長のためには、データを基にした戦略が必要不可欠になりました。

僕の見立てでは、データの民主化を進めていたこともあり、社内のPMがデータをもとにした戦略を描けるだろうし、エンジニアである僕らが基盤をつくればなんとかなると思っていたんです。

しかし、ここで大きな壁に直面しました。

ピラミッドをイメージしていただきたいのですが、頂点——つまりデータから成長戦略を描き出す役割——のすぐ近くにはPMがいて、頂点を目指して底上げしていけば、その役割を社内の人間が担えると思っていました。

 

しかし、僕が見ていたピラミッドは、実際は台形だったのです。「データから成長戦略を描き出す」というアクションは想像以上に難度が高く、それを実現するためのスペシャリティは、そう簡単に身に付けられるものではありませんでした。

データの民主化を推し進めれば推し進めるほど、見えていなかった頂点が鮮明に見えてきたのです。

—— そこで、データアナリストの必要性に気付いたと。

assy:施策単位の細かい案件を含め、データ分析をすべてデータチームに委託する体制では、データチームのリソースが事業推進のボトルネックになります。それでは事業と組織の拡大が難しくなってくるので、底上げをしようとしていることは間違いではなかったと思っています。

実際、今も“事業部全員データアナリスト“のビジョンは掲げていますし、施策単位のPDCAに関する分析は自走できるように推進しています。

ただ、どれくらい民主化させるかは難しい問題で。今回でいえば、「PMがデータアナリストのスペシャリティを担う」という理想郷に向かうことは、必ずしも正義ではなかったと思います。

どうしたものかとあくせくしていたところ、ご縁があり、データアナリストとして活躍しているanbooさんとお話しさせていただくことになりました。

データアナリストの「本当の仕事」

—— anbooさんはどのような経緯で、High Linkで働くことになったのですか。

anboo:初めてお会いした際は、先程のお話の通り「データの民主化の限界」について悩まれていて、今後の方針についてディスカッションしました。

「手伝ってください」とオファーもいただいたのですが、会社のフェーズに対してデータチームの人材が厚く、データ基盤も整っており、樫田さん率いるGrowth Camp(グロースと意思決定のROIをキーワードに“サービスの成長”を支援するチーム)が顧問に付いていたので、「私が入らなくても自分たちでできるはずです」とお返事をしました。

anboo / データアナリスト・プロダクトマネージャー:株式会社メルカリでPM・DataAnalystとしてGrowthMarketingチームの立ち上げに従事。その後医療系ベンチャーに1人目データ人材として入社し、データマネジメントやデータ分析等、データ活用の推進に取り組む。現在はフリーでベンチャー企業のデータ分析支援やLLMを活用したプロダクト開発支援等をしている。

assyさんの構想と違ったのは、PMにデータから成長戦略を描く役割まで期待するのではなく、あくまでデータチームが主導して戦略を描いていくことを提案したことです。

どのような切り口で分析すると事業成長につながるインサイトが出せそうか、参考になりそうな過去の成功事例などをお伝えしました。

assy:anbooさんからいただいたアクションの指針を実践したところ、データチームが事業成長に貢献するという、これまでにはなかった成果を上げることができました。

ただ、ある一定の成果が出ると、やはり天井が見えてくるんですよね。より大きなインパクトを生むには、いよいよ自分たちの力だけでは限界が近づいてきて、そのタイミングで改めて相談させていただきました。

—— anbooさんはなぜ、High Linkに参画することを決められたのですか。

anboo:実は当時、新しい案件を受けるのはストップしていたんです。それでもお受けしたのは、話を聞いていくなかで、「High Linkでなら短期間で大きな事業インパクトを出せるだろう」と感じたからです。

これまでいくつかの企業でデータ分析のお手伝いをしてきましたが、ほとんどの場合はデータ基盤を整えるところからスタートします。そのため、どうしても大きな事業インパクトを生むまでに時間がかかっていました。当時は複数の案件を抱えていたので、そこまで時間を割くことは難しかったんです。

ただ、High Linkは、アーリー〜ミドルステージの企業としては珍しいくらいにデータ基盤が整っていました。既にお膳立てしてもらっていて、「あとはゴールを決めるだけ」な状態だったんです。

社員数十名のスタートアップで働くデータアナリストの方には共感いただけると思うのですが、このフェーズでデータアナリストがデータ分析だけに集中できるというのは本当に珍しいと思います。「そんな楽しい仕事あるの!?」と驚いちゃいましたね。

データアナリストは、「SQLが得意な人」「欲しいデータを出してくれる人」「ダッシュボードをつくる人」といった認識をされてしまいがちですが、本質的には「データから成長戦略を描き出す人」だと思っています。

High Linkはデータの民主化が進んでおり、「データから成長戦略を描き出すこと」だけがアナリストに期待されていたので、非常にやりがいがあるなと感じ、オファーを受けました。

「組織を動かす」までがデータアナリスト

—— データアナリストを迎え入れ、具体的にどのようなアクションを実行したのでしょうか。

anboo:入社時点で、assyさんから「アクショナブルなダッシュボードになっていない」という課題を伺っていました。

ダッシュボードを見れば「毎月の更新率が上がっていない」という課題は見つかるけれど、そこからどのようなアクションを実行すればよいのか分からない、という状態だったのです。

そこで、まずは更新率に対するアクショナブルな先行指標を見つけるところからスタートしました。プロダクトを一通り触ってみて、更新につながるキーアクションの仮説を立て、更新率との相関を見てみたのです。

すると、注文予定リスト(翌月以降に注文するアイテムを仮登録できるリスト)に入っているアイテム数を増やすことが、最も更新率の向上に寄与しそうだということが分かりました。

そこで、注文予定リストへのアイテム追加数をKPIに据えてさまざまな施策を実施していったところ、更新率が日に日に向上していきました。

目標が「更新してもらう」という抽象的なものから「ユーザーにアイテムを追加してもらう」という具体的なアクションに変わったことで、フォーカスが定まり、グロースチームやプロダクトチームのアクションが明確になったことが、更新率を向上させられた最大の要因だったと思います。

また、1ヶ月後にしか結果が見えない更新率と違って、アイテム追加数はすぐに効果測定ができます。これにより、施策のPDCAサイクルが格段に速くなったことも大きかったと思います。

assy:anbooさんにサポートしていただいてから早速トップラインが伸びているのですが、彼女が出してくださったバリューはそれに止まりません。

僕が考えるに、データアナリストのバリューは突き詰めると二つです。

一つは、データを根拠に、向かうべき先を決めること。まさに、「注文予定リストにアイテムを追加することが、更新率の向上に貢献する」といったアクションを導き出すことです。

もう一つは、向かうべき先を決め、そこへ組織を動かすことです。向かうべき先が見つかったとしても、そこへ組織が向かえなければ意味がありません。anbooさんは、この能力が非常に高い。

anbooさんが作成してくれた資料は非常にシンプルで、たった数枚のスライドですべてを語り切ってくださるんです。詳細までお見せすることはできないのですが、納得感があるだけでなく、一目見ればやるべきアクションが分かる。これにより、組織が一気に動き出すことができました。

anboo:これは先行指標の定義の次に行った、ユーザーセグメントの図ですね。これにより、ユーザーのモチベーションに寄り添った施策の出し分けが可能になり、施策効果の最大化やROIの改善を狙うことができます。

「分かりやすく伝える」ことは、データアナリストに必須のスキルだと思っています。

「分析」だけでは1円も事業を伸ばすことはできず、いろいろな職種の方に協力いただいて初めて事業成長が達成されるわけですから、社内の誰が見ても一目で理解できるくらいシンプルにわかりやすく伝えることが肝要ですよね。

そういう意味では、データで方針を示すだけでなく、具体的にどんな施策をどのような優先順位で実行していくかを決めるところまでPMに伴走することで、施策のデリバリーにまで責任を持つようにしています。

assy:事業課題を解像度高く理解し、データをベースにソリューションを導き出し、これを組織の動きに反映する。anbooさんの仕事を間近で見ていて、これがデータアナリストのスペシャリティなのだと再認識しました。

データ分析チームを立ち上げる「最初の一人」に

—— データアナリストの視点が加わったことで、組織にはどのような変化がありましたか。

assy:何をどうすれば事業成長に貢献するかが可視化されたことで、メンバーのアクションが事業成長に直結するようになりました。それによって「今日の動きが事業の成長を決めるんだ」という意識が強くなり、よりデータドリブンな組織に変化できたと思います。

また、anbooさんがデータ分析による事業推進の「型」を見せてくれたことで、それまでデータチームのメンバーで曖昧になっていた機能をきれいに切り分けられるようになりました。

これにより、データチームは「データ分析」「データマネジメント」「データサイエンス」の三軸から構成される組織へと変化しました。ジョブディスクリプションが明確になり、採用活動もしやすくなったと感じています。

—— 現在データチームでは、どのような職種を採用しているのですか。

assy:全方位的に積極採用中ですが、やはりデータアナリストの採用が急務です。現在は業務委託として支援していただいているanbooさんがいるからこそ成り立っていますが、今後は組織として価値を生む体制を築かなければならず、ここがターニングポイントになると感じています。

anboo:私が今回行った分析はほんのスタートラインで、今後の継続的な事業成長のために解くべきイシューは山程あります。ダイナミックな挑戦がたくさんできる環境なので、とてもやりがいがあると思いますね。

High Linkは、経営陣をはじめ全社的にデータで意思決定するカルチャーが根付いていて、データ基盤やモニタリング体制にもしっかり投資がされています。SQLを書けるメンバーも多く、専任のデータエンジニアやデータサイエンティストも在籍しているので、データアナリストとして事業の成長戦略を描く仕事に専念できると思います。

スタートアップへの転職、それも1人目のデータアナリスト職となると不安もあるかと思いますが、High Linkは「バリューを発揮するための障害がほとんどなく、価値を出す余白は十二分にある」という理想的な環境だと思うので、安心して飛び込んでほしいです。

—— 一人目のデータアナリストには、どのような役割を期待していますか。

assy:大きなミッションは、大玉の事業Issueに向き合うこととデータ分析チームの立ち上げです。anbooさんが現在発揮してくれているバリューを再現しつつ、それを組織の機能に落とし込む役割を担ってほしいと思っています。

anboo:例えば、事業会社のデータアナリストとして、チームのKPI設計や戦術を描いたご経験があるような方の、次のチャレンジの場としてはぴったりなのではないかと思います。

データ分析チームの立ち上げについては、ここまでデータチームを立ち上げ育ててきたassyさんのサポートがあるので、強い思いさえあればきっと大丈夫です。

High Linkはまさしく、「打てば響く組織」といった感じで、分析結果を共有するのが本当に楽しい組織です。まずは副業からでも、この空気を感じてほしいと思っています。

assy:データアナリストのバリューを思い切り発揮してもらえる環境を整えてお待ちしています。オンラインでの意思決定が難しい「香り」という領域の課題を解き明かし、そして新たな事業づくりに一緒に取り組んでいきましょう!

構成:オバラ ミツフミ
編集:塩盛 茉優子

 

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