カラリアが実践したBrand“ing”するためのリブランディング

2023年7月4日、香りの総合プラットフォーム「カラリア」はブランドリニューアルを発表しました。

プロジェクトを推進したのは、当時プロダクトを統括していた百瀬凌也(現・エンジニアリングマネージャー)とデザイン責任者の佐野葵、サポーターとして社外からお招きしたデザインエンジニアの出口貴也さんとデザインストラテジストの倉光美和さん。構想から1年以上の時間をかけ、「理想の香りと出会う場所」という新たなコンセプトを掲げました。

ブランドとして初めてのリニューアルを振り返ると、たくさんの思いと学びと反省が浮かび上がってきました。

プロジェクトを通じて、どのような資産が得られたのか。ブランドリニューアルを実践する際に、やるべきこと・やらなくてもいいことはなんだったのか——。

出口さんと倉光さん、佐野の鼎談を通じて、ブランドリニューアルの舞台裏をお届けします。

会議室ではなく、現場からブランドをつくる

—— 2023年7月4日、カラリアはブランドリニューアルを発表しました。どのような経緯でリニューアルが実施されたのか、教えてください。

佐野葵 / High Link デザイン責任者:大学卒業後、プロダクトスタジオにてスタートアップの新規事業やグロースにまつわるプロダクトデザインを担当。その後、株式会社High Linkに一人目のデザイナーとして入社。 現在は、デザイン責任者としてブランディング、プロダクトデザイン、組織づくりに取り組む。

佐野:香りの総合プラットフォーム・カラリアは、2019年にリリースしたサービスです。当初は若年層の女性を中心にサービスを提供していましたが、現在は男性のユーザーが増えているだけでなく、ユーザーの年齢層も多様になってきました。

しかし、サービスのコンセプトはリリース時から変わっておらず、次第に「ユーザー像や提供価値が明確に描けていない」という課題を感じるようになりました。

さらなる成長を目指すには、どうすればいいのか——。その課題感から、今回のブランドリニューアルプロジェクトが発足しました。

出口貴也 / 5m株式会社 代表・デザインエンジニア:クックパッドにて新規サービスを多数立ち上げ後、コラボレーションSaaSのプロダクト責任者、HRTechスタートアップの取締役CXOを経験。フリーランス活動を2022年に法人化。デザインとエンジニアリングを行き来しながら、ゼロイチのプロダクトづくりや、組織づくりの支援を行う。

出口:リニューアルが実施される以前から、顧問としてカラリアの事業成長を支援していました。ある日、先ほど佐野さんがおっしゃっていた課題について相談を受けたのが、今回のプロジェクトを支援するに至ったきっかけです。

より詳しく話を聞いていくと、ユーザー像を明確にする以前に、「カラリアというサービスの在り方」を明確にする必要があることに気が付きました。

ターゲットを明確にすることも大事なことですが、これからより大きく事業を成長させていくためには、ありたいブランド像を明確にすべきです。「香り」はインターネットで魅力を伝えるのが難しいものなので、なおさら明確なメッセージングが必要なはずです。

それが共通認識になった段階で、百瀬さんから「ブランドリニューアルを実施したい」と相談を受けました。このタイミングでプロジェクトが発足し、カラリアからは百瀬さんと佐野さん、外部のメンバーとして倉光さんと私が加わり、合計4人のメンバーでプロジェクトが立ち上がりました。

—— ブランドリニューアルは、どのようなタイムラインで実施されたのでしょうか。

佐野:ブランドリニューアルの話題が出たのが2022年の3月頃で、プロジェクトが始動したのが7月です。エグゼクティブインタビューをはじめとするリサーチや、インターン生を含むほぼすべてのメンバーが参加したワークショップを出口さんがリードしてくださり、「カラリアらしさ」を定義していきました。

—— かなり多くの人数がプロジェクトに関わっていたのですね。

出口:High Linkは非常にフラットな組織で、職種・役職を問わず、誰もがサービスに対する思いを持っています。そのため、限られたメンバーだけでブランドリニューアルを推進したくはないと考えていました。

また、リブランディングはデザイン上の課題を解決するだけでなく、ビジネスとしての成果にしっかりとつなげていく必要があります。そのためには、デザイナーだけでプロジェクトを進めるのでは不十分です。なるべく多くのメンバーを巻き込み、ブランドを継続的に体現していく土台作りの必要性を感じていました。

ワークショップでは、メンバーが考える「カラリアらしさ」を抽出していきました。カラリアというサービスに人格を持たせ、「これはカラリアさんらしい」、あるいは「カラリアさんらしくない」ということを議論して、メンバーそれぞれが考える「らしさ」の輪郭を研ぎ澄ませたのです。

最終的には「気さくで頼れる」「自然体で品がある」「変化を楽しむ」という、ブランドの人格を表す3つのブランドパーソナリティを導き出し、これを起点にプロジェクトを推進しました。

Brand“ing”しなければ意味がない

—— 導き出したブランドパーソナリティをビジュアライズするのは簡単なことではなかったと思います。振り返ってみて、今回のプロジェクトにはどのような難しさがありましたか。

倉光美和 / KRAFTS&Co. 代表・デザインストラテジスト:カプコンやクックパッドなどを経て、2022年より遊びと余白をつくるデザインスタジオ「KRAFTS&Co.」を設立。インハウスデザイン組織の成熟度に応じて、コンセプトデザイン・しくみづくり・組織戦略に伴走するスタイル。最近の仕事は「B/43」ジュニアカードのコミュニケーションデザイン、「くふうカンパニー」ブランディングデザイン、スパイスビネガードリンク「RINDA」の商品企画など。

倉光:これまでたくさんのグラフィックデザインを手がけましたが、今回はとても苦労しました(笑)。というのも、「香り」のように目には見えないものを視覚的に表現するというのは、これまで経験が少なかったからです。個人的な表現を使えば「降りてこないな」と感じていました。

ブランドパーソナリティである「気さくで頼れる」と「自然体で品がある」は、ともすれば相反する両極に位置する印象を与えるものです。これらを体現し、「品があるけれど気軽に使ってみたい」と思えるデザインをつくるのには時間がかかりました。

印象的だったのは、地方に暮らす香水が好きな一般の方へのインタビューです。カラリアのWebサイトを初めてみた男性が「ここに男性向けの香水はありますか?女性専門の美容室に間違えて入ってしまった感じがして……」とおっしゃっていました。

カラリアは、男性向け香水も多数取り扱っています。香りを楽しみたいと考えているすべての人々のためにも、ビジュアルデザインを変更するタイミングに来ているのだなと理解しました。

インタビュー以外にも、香水を販売しているお店に足を運んだり、カラリアを実際に利用してみたり、香りに関する学術的な書籍を読んだりして、感じたことをスケッチし続けた結果、今回のアウトプットにたどり着いています。

制作の助けになったのは、High Linkのオープンなカルチャーです。Slackや過去の資料に自由にアクセスできる環境を用意していただいたので、出口さんがまとめてくださったリサーチはもちろん、会社の雰囲気をダイレクトに感じられたのは、壁を突破する追い風になりました。

デザインをつくる以外にも、苦労した点があります。仮に納得のいくデザインがつくれたとしても、それが運用性に長けているかはまた別の話なので、ちゃんとブランディングできるか、つまり“ing”するための体制構築も課題だったのです。

デザインにおけるコンセプトを定義し具現化するのは私ですが、サービスUIや送付物などさまざまなタッチポイントに反映していく工程は、佐野さんをはじめ現場のデザインチームの皆さんに委ねなければなりません。デザインチームには定期的にフィードバックをもらいながら、検証を重ねていきました。

佐野:カラリアはWebサービスですが、アドマイザーや商品を届けるパッケージなど、物理的なアイテムがあって成立するビジネスモデルです。それらに新しいロゴを反映したときに世界観がずれてしまわないか、視認性は問題ないかといった問題を考慮しなければいけませんでした。それを踏まえた上で、コンセプトを体現したデザインをサービスに溶け込ませることが私の最大のミッションだったのです。

これを実現できたのは、再定義したブランドを既存の事業や組織に適応させていくところまでをプロジェクトのスコープに入れていたからです。サービスへの反映だけでなく、ブランドに対する共通認識を持てるよう、既存のメンバーはもちろん、新しくjoinしてくれるメンバーにも、ブランディングについて繰り返し伝えていく時間を設けるよう設計しています。

ビジュアルやライティングのガイドラインをしっかりつくりこんだことで、例えば誰がSNS投稿を作成しても「カラリアらしさ」を体現できるようになっています。

「みんなでつくった」新ロゴの完成秘話

—— ブランドを体現する現在のロゴは、どのようにして決定されたのでしょうか。

佐野:倉光さんから最終的にいただいた案は3つあり、メンバー全員から意見を募った結果、2つのロゴが候補に残りました。

一つは、カラリアの「C」を生かしたロゴです。3つのブランドコンセプトの中でも、「気さくで頼れる」を強く体現したデザインになっていました。

もう一つが、現在のカラリアのロゴです。先ほどのロゴに比べて上品さがあり、「変化を楽しむ」というブランドコンセプトも強く反映されています。ただ、既存のロゴから飛躍がある分、どちらが選ばれるかは私自身予想できていませんでした。

倉光:新ロゴ案の最終的な意思決定は百瀬さんが行うということは、プロジェクト初期に経営メンバー含めて合意していました。そのうえで、ワークショップに参加していただいたメンバーを対象に最終候補に関するフィードバックも募っています。

ポジティブからネガティブなものまでさまざまな声がありましたが、それらを反映して細かい微調整を加えましたし、みんなでつくりあげたアウトプットなので、ハレーションは生まれませんでした。

出口:意思決定者は一人でしたが、先に意思決定の基準を設けていたのも良かった点だと思います。

サービスのロゴを変更するときは、各々の立場から「こうした方がいい」という意見が出るので、途中で迷走することが多々あります。これを避けるために、あらかじめ意思決定の基準を漏れなく準備していたんです。

先に目的と航路を整備したことで、迷いのないプロジェクトになったと思います。ロゴに関しても、個人の好き嫌いに依存しない判断ができました。

ちなみに「変化を楽しむ」というブランドコンセプトは、サービスそのものだけでなく、High Linkという会社のカルチャーを反映したものです。

カラリアはHigh Linkの主要プロジェクトですが、これからあらゆる領域で新規事業を立ち上げていく未来を描いているので、その意思が反映されるようにしていました。現在のロゴが選ばれたのには、そういった背景も含まれています。

—— 初めてのブランドリニューアルを終えて、反省点はありますか。

佐野:これは私の責任ですが、サービスへの反映に予定より長い時間をかけてしまったのは反省点です。商材の在庫までは考えが及んでおらず、旧ロゴと新ロゴが入り混じった状態でリニューアルを実施してもいいのか、なかなか意思決定できませんでした。

在庫を処分するわけにもいかず、とはいえ在庫が捌けるまで待つのも時間がかかります。最終的には一部商品は旧ロゴのままお届けしたのですが、考えきれていなかったなと。

ありがたいことに批判的な声はなかったのですが、これを当初から頭に入れていたら、もっとスムーズにプロジェクトを完了させられていたはずです。

出口:佐野さんがおっしゃっている課題は、Webで完結しないサービスを運営しているからこそ生まれるものです。

物理的なプロダクトを持つ事業者さんにとっては重要な視点になるので、ぜひ「しくじり先生」的に伝わってくれたらな……と思います(苦笑)。

プロジェクトに学んだ「対話とフィードバック」の重要性

—— ブランドリニューアルを振り返り、当初感じていた課題は克服できましたか。

佐野:まだリニューアルを発表して間もないですが、プロダクトが提供したい価値や、価値を届けたい相手を明確にでき、全社で同じ方向を見られるようになったと感じています。

社歴が長いメンバーにとってもプロダクトの価値を再認識する機会になり、とても実りのあるプロジェクトになりました。

デザイン組織に限っていえば、これまでデザインの良し悪しの判断が個人に依存しがちだったのですが、これを共通の基準で判断できるようになったのが大きな収穫です。メンバー全員の自走力が高まったことで、今後はより一層強度の高いブランドをつくることにチャレンジしていけます。

出口さん、そして倉光さんのサポートを受け、Brand“ing”し続ける強い組織づくりに求められるのは「対話とフィードバックの数」だと感じました。High Linkのメンバー、デザインチーム、プロジェクトメンバーとの対話とフィードバックを繰り替えしてきたことで、ブランドが形作られたからです。

今後はデザイン組織の責任者として、対話とフィードバックを通じてメンバーが持つ能力を引き出し、ユーザーさんと向き合っていきます。このサイクルを回し続けることで、経営に資するデザイン組織がつくれるはずです。

目に見えない「香り」にまつわる体験をデザインで表現するのは簡単ではありませんが、それだけやりがいも多い。今回のブランドリニューアルをきっかけに、ますますアクセルを踏んでいきます。

—— 出口さん、倉光さんから見て、High Linkのデザイン組織の魅力はどのような点にあると思いますか。

出口:目に見えない「香り」という領域でのブランディングやデジタルプロダクトづくりは、デザインの力の見せ所です。デザインがビジネスの成果にもつながりやすく、本質的なチャレンジができるとも思います。また、優秀なエンジニアも多く在籍するチームなので、デザインだけでなく、技術やビジネスと掛け合わせたチャレンジがしてみたいデザイナーにはおすすめです。

倉光:リブランディングプロジェクトを通じて、このフェーズのスタートアップの中では、デザインや表現に対して積極的に投資をしていると感じました。まだ人数も少ないので、メンバーの裁量も広く、さまざまなチャレンジができる環境だと思います。「企画から考えられるようになりたい」というデザイナーにはおすすめです。

佐野:お二人とも、ありがとうございます。これから私たちは、ブランディング、プロダクトデザイン、コミュニケーションデザインの3つを軸に、デザインの力を最大化し、カラリアを名実ともに「理想の香りと出会う場所」にしていきたいと考えています。これを実現するには、「目に見えない香りのデザイン」という高い壁に挑む仲間が必要です。

構成:オバラ ミツフミ
編集:塩盛 茉優子

 

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