リブランディングにおけるサービス反映フェーズの振り返り

 

こんにちは、香りの総合プラットフォーム「カラリア」を運営するHigh Linkのデザイン責任者・佐野 葵(@_aaaaa_design)です。

 

カラリアは、2023年7月にリブランディングを発表しました。ブランド・コンセプトを「理想の香りに出会う場所」と再定義し、香りを愛するみなさまと、香りで世界を彩るサービスとして新たなスタートを切っています。

新しいロゴ

 

初めてのリブランディングでは、想定していた以上に時間がかかったり、予想できなかった失敗が起こったりと、実践しなければ得られなかった学びが数多くありました。

 

プロジェクト全体の流れについては、リブランディングをサポートいただいたデザインエンジニアの出口貴也さん、デザインストラテジストの倉光美和さんとの鼎談記事がリリースされているので、ぜひご覧ください。

blog.high-link.co.jp

 

本記事では、リブランディングを経て新たに決定したロゴを、サービスへと「反映」するプロセスについて、プロジェクト当事者の視点で抜粋して振り返ります。具体的には、ブランドのアイデンティティをサービス全体に反映するにあたり、実施したことや苦労したことをお伝えできればと思います。

 

想定読者は、デジタルプロダクトのリブランディングに関心のあるデザイン責任者・コミュニケーションデザイナー、そしてプロダクトデザイナーのみなさんです。

 

サービスへの「反映」とは?

本記事における「反映」とは、ブランドのアイデンティティをサービス全体に反映することと定義します。

反映の様子

 

一般的に、リブランディングはロゴを変えるイメージが強く、ロゴを決めるまでのプロセスに注目が集まりがちです。しかし、ブランディングはロゴを変えるだけでは成立せず、サービスのあらゆるタッチポイントで、ブランドアイデンティティを継続的に体現し続けることが必要だと考えています。


サービスへの「反映」はその第一歩であり、社内外の関係者を巻き込んで進める必要があるため、泥臭くもあり重要なフェーズです。

ブランドのアイデンティティを反映したデザイン例

 

香りの総合プラットフォーム・カラリアについて

 

本題に入る前に、カラリアについて少し紹介させてください。

 

カラリアは「香りで世界を彩る」をミッションに掲げ、

1. 香水サブスク「カラリア 香りの定期便」
2. 香り専門メディア「カラリアマガジン」
3. 香水ブランドの顧客獲得とファン育成をサポートする「カラリア for Business」

の3事業を運営しています。

 

フレグランスアイテムのような物理商材を扱っていることもあり、反映対象はサービスサイトやSNSのようなオンラインから、パッケージやチラシのようなオフラインまで多岐にわたります

 

プロジェクトの体制

今回は、下記体制で進めました。

サービス反映の体制

 

イラストや写真といったアセットは、汎用的である程度長く使えるものを作りたいと考え、各領域のスペシャリストである外部パートナーの方々にご依頼しました。

 

また、各タッチポイントのデザイン制作については、一時的に業務量が増えることを見越して、副業メンバーの臨時採用を行いました。


このように社内外のメンバーと連携して反映を進めたことで、タスクの優先順位づけ・クオリティコントロールを行うメンバーが必要となり、私はプロジェクトマネジメントとアートディレクションを担当することになりました。もちろん多少は手を動かしたい気持ちはありましたが、仮にそうしたら自分がボトルネックになっていたでしょうし、今回は交通整理に徹して正解だったと思います。

 

サービスへの反映で取り組んだこと

 

STEP(1):プロジェクトマネジメントのインプット

初めて大きなプロジェクトをリードすることになったので、最初は書籍でプロジェクトマネジメントについてインプットしました。これをやらなかったら頓挫していたと思います(笑)。

 

参考にした書籍👇

PMBOK対応 童話でわかるプロジェクトマネジメント

外資系コンサルが教える難題を解決する12ステップ プロジェクトリーダーの教科書

 

STEP(2):デザインの優先順位付け

すべてのタッチポイントへの反映を7月のお披露目までに終えることは到底できなかったため、優先順位を決めました。

タスクの例

 

具体的には、お披露目時にちぐはぐな体験にならないよう、多くの人の目に触れるタッチポイントから優先的に変更しました。また、お披露目から3ヶ月間は、やむを得ない場合は旧ロゴを使って良い期間としていました。

 

STEP(3):デザインキーワードの視覚化

新しいロゴが決まったタイミングでブランドガイドラインを作成していましたが、デザイントレンドの変化に対応できるようデザインキーワードやカラーといった基本的な情報に留めていました。

よって、具体的なデザインの方向性が決まっていない状態で反映が始まりました。

デザインキーワード

 

そこで、まずは「たゆたい・ニュートラル・スタイリッシュ」というデザインキーワードをどのように表現するかを探るため、さまざまなデザインパターンを作成して検証する時期が続きました。

色んなパターンを検証する様子

 

検証の結果、方向性は定まったのですが、一度決定したデザインを他の要素のとバランスを見て変更したり、もう一度アイディアを出しなおすことになったりと、メンバーに多くの負担を強いてしまったと思います。(みなさん、根気強く付き合ってくださりありがとうございました…!)。

 

今回は、お披露目が当初の予定より延期され(理由は後述します)、たまたま時間に余裕があったのでどうにかなりましたが、本来はデザインの検証期間として最初にある程度まとまった時間を取るべきなのと、いくつかのデザインが集まったときの全体感を見ながら意思決定していくべきだと考えています。

 

デザインの方向性が見えてきてからは、デザイン時のルールを言語化・可視化するようにしました。その結果レビューにかかる時間が減り、副業など非同期でプロジェクトに参加してくださってるメンバーでもある程度効率的にプロジェクトを進めることができました。

デザイン時のルール例

 

STEP(4):デザインアセットの作成

今回、イラスト・写真・モーションロゴといったデザインアセットを作ったことで、カラリアらしいデザインを速く、一貫性を持って作れるようになりました

制作したイラスト・写真

 

リブランディング前は訴求したい内容にマッチする写真がないため、ゼロからフリー素材をを組み合わせて時間をかけてバナーを作ったり、イラストのタッチがまばらで一貫性のあるビジュアルが作れなかったりと、一つのデザインを作るのに時間がかかっていました。

 

リブランディングを機にこれらの課題が解決され、デザインチームの機動力が上がりました。ある程度まとまったお金は必要ですが、私たちのようにタッチポイントが多いサービスは、デザインアセットに投資できると、チリツモで大きなリターンに繋がると思います。

1日かけて写真を撮影しました



STEP(5):オフラインへの反映

オフラインへの反映は、パッケージや、香水を入れて持ち運ぶアトマイザーケース、商品紹介カード、チラシなどの物理商材が対象です。物理商材は一度発注すると後から修正できないため、目指すべきデザイン品質を高く設定し、時間をかけて慎重に取り組みました。

 

一番印象に残っているのは商品紹介カード制作です。カラリアでは約1,000種類の商品を取り扱っているのですが、すべてのデザインを制作するのはかなり泥臭く、根気のいる作業でした。

カラリアの商品紹介カード

 

過去に制作した際、商品データの流し込みで手戻りが発生していたのですが、今回はあらかじめデザインテンプレートを作成し、Illustratorの変数やアクション機能を使ってデータ流し込みを自動化したことで、効率化に成功しました。

 

もし自動化に興味ある方いらっしゃったら、こちらの記事が参考になりそうです👇 

blog.labol.co.jp

 

 

STEP(6):オンラインへの反映

前提

サイトやLPについては、クリエイティブディレクターの倉光さんにアドバイスをいただき、リブランディングと同時に仕様を変えないよう気をつけていました。

 

同じタイミングで変えてしまうと、ユーザー行動などに変化があったときにリブランディングによる変化なのか、仕様変更による変化なのか特定できなくなってしまうのと、場合によってはお客さまからリブランディング自体をマイナスに捉えられてしまう可能性があったためです。

 

サイト

まず、デザインキーワード「たゆたい・ニュートラル・スタイリッシュ」に基づいて、UIのパターンを複数作成して検証しました。

UIパターン検証の様子

 

当初はボタンカラーをLavender(紫)にする想定だったのですが、バナーも含めて複数画面に反映すると占いサービスのような印象になってしまい、作りたい世界観とのギャップが生まれてしまいました。一方で、マーケ担当者からBlack(黒)だとボタンが埋もれてCTRが下がるのではないか?という意見も出たため、ここは判断に悩んだポイントです。

 

最終的には、よりつくりたい世界観にマッチするBlackで進めつつ、LPのように重要な画面はA/Bテストを実施して、結果次第でLavenderを使う方針で落ち着きました。

 

カラーが決まったら、デザインシステムに反映していきます。エンジニアと連携し、現在定義してるカラーの変更方針をすり合わせてドキュメントを作成しました。

エンジニアとすり合わせたカラーコードの変更方針

 

リブランディング前はあらゆるところに同じピンク色が使われ、デザインシステムでは1つのカラーとして登録されていたのですがが、今回からボタンはBlack、ラベルはLavenderといくつかの色に分割されたため、変更には苦労しました。

 

リブランディングの際、エンジニアと連携したデザインシステムがあると、基本的には定義されているカラーコードを変更するだけなので、スムーズに進みます。一方でデザインシステムが存在しない場合は、一箇所ずつ手作業で色変更することになり、めちゃくちゃ時間がかかります(笑)。同じ時間をかけるなら、このタイミングでデザインシステムを新規作成しても良いかもしれません!

 

ちなみにデザインシステムへの反映は、こちらの記事を参考にしていました👇

developers.freee.co.jp

 www.wantedly.com

 

サービスを使ってくださってる方の混乱を避けるため、サイトのデザイン切り替えはお披露目の前日に実施し、切り替え後の24時間はログを監視して、問題なければお披露目のプレスリリースを出す段取りを組んでいました。

 

LP

また、LPはサービスにとって重要なページだったので、大きな損失を回避するため旧デザインとA/Bテストをした上で、大きな問題がなければ反映するフローで進めました。

 

これはどちらが優れているかを決めるためではなく、あくまでバグなど致命的な問題がないか?を確認するためのステップでした。今回は新デザインが勝ちましたが、仮に負けたとしても継続的に改善する前提で進めていました。

 

最後に、オンラインへの反映にあたっては、こちらの書籍がおすすめです。変化の激しいデジタルプロダクトならではのブランディングにまつわる実践的なノウハウが詰まった一冊です。

 デジタル・ブランディング――世界のトップブランドがいま実践していること



プロジェクトの反省

サービス反映の過程でたくさんの学びと失敗がありましたが、一番の反省は「予期せぬスケジュールの延期と在庫廃棄」です。当初、新ブランドは3月頭にお披露目する予定でしたが、物理商材の在庫調整のため7月に延期になりました。

 

プロジェクトを延期し、新ブランドのお披露目日にほぼすべての物理商材のロゴを新ロゴに切り替える方針で進めていたのですが、結局は諸事情で一部旧ロゴでお届けすることに。しかし、大きな問題が起こらなかったことを踏まえると、順次変更で良かったな……と反省しています。

 

大半の商材は新ロゴでお届けでき、お客さま視点で一貫性がある点は良かったのですが、在庫廃棄でわりと大きな金銭的負債が生まれたのは、スタートアップには痛手です。物理商材を持つサービスの場合、早めに物流や在庫を管理するチームと相談することをおすすめします。

 

 

最後に

リブランディングを終えて3ヶ月、今はサービスミッション「香りで世界を彩る」の実現に向けて全員で向かえている感覚があります。

 

一方で、ブランディングはここからが本番で、ブランドを育てていくのはもちろん、今後は目に見えない香りにまつわる体験づくりにも取り組んでいきたいと考えています。ここはデザイナーならではの「可視化する力」が必要不可欠だと考えており、新しい仲間を絶賛募集中です!

 

募集ポジションはこちら

また、X(旧・Twitter )のDMを開放してますので、カラリアのデザインについて聞いてみたい方や、リブランディングについてもっと知りたい方は、お気軽にご連絡ください!この記事には書けてないのですがSNSへの反映プロジェクトや、写真素材のアートディレクションなど色々お話できることがありそうです◎

Sano Aoi | ハイリンク (@_aaaaa_design) / X

 

最後まで読んでくださりありがとうございました!

 

それでは👋



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